お疲れ様です。はらです。
デザインを本格的に始めて5年目になる30歳の男です。
趣味は映画鑑賞、読書、アイドル鑑賞です。
2月1日、欅坂46の8thシングル「黒い羊」のMVが公開されました。
いやー凄かった。心臓をえぐられるような衝撃的な作品で、ネットには瞬く間に考察が溢れました。みんな語りたくて、知りたくて、共有したくてたまらないといった感じでした。彼女たちのMVが公開された時には必ず起こる現象です。
かくいう僕もその一人でして、今回は細かい部分を拾いながら、少しデザイン的な視点を交えて今作のMVの構成とか解釈とか僕なりの考察を書いていこうと思います。めちゃくちゃ長くなりそうです。
欅坂46って?
知らないという方の為に基本情報を書いておきますね。知っている方は読み飛ばしちゃって下さい。
欅坂46は、秋元康プロデュースの女性アイドルグループです。AKB48の公式ライバルである乃木坂46の妹分として、2015年8月21日に結成され、翌2016年の4月6日、1stシングル「サイレントマジョリティー」でデビューしました。このデビューシングルで、CDの売り上げやMVの再生回数など、様々な記録を塗り替えて一躍トップアイドルとなり、センターの平手友梨奈(デビュー当時14歳)の圧倒的な表現力とパフォーマンスにも大変な注目が集まりました。そしてこの年、デビューしてから一年未満という恐ろしいスピードで紅白歌合戦にも出場しちゃったんです。
その後発表されたシングル、アルバムも次々大ヒット。唯一無二の存在感を放つグループになりました。
欅坂46は、よく「笑わないアイドル」と形容されますが、割と笑うんですよ。「反抗」をテーマにした曲が多く、その曲のテーマをより深く表現する為にメンバーが「笑わない」事を選んだだけです。そういうグループにしようと思って作った訳ではない、と秋元さんも言っていましたが、曲によっては笑うんです。
孤高の天才「平手友梨奈」
グループの存在感の大きな大きな要因になっているのは、やはり平手友梨奈でしょう。今はまだ、彼女を軸に考えるしかないんですよね、このグループの事は。
MVをよく観ていると判るんですが、平手はどんどん「孤高の存在」になっていくんですよ。デビュー当初は「主役」として一人だけピックアップされる場面が多かったんですが、どんどん作品を発表するにつれ、彼女の目つきが変わっていくんです。
活動を通して経験した事、感じた事、色々な物が彼女をどんどん蝕んでいったんじゃないでしょうか。僕らは想像する事しか出来ません。
彼女が自然とそうなっていったのか、演出が意図してそうしているのか、はたまたその両方なのかわかりませんが、彼女はどんどん「一人」ではなく「独り」になっていくんです。
その姿は痛ましく、もどかしい。でも、そこに人々はドラマを感じずにはいられないんです。残酷ですね。
秋元康プロデュースのアイドルグループは、MV制作に物凄く力を入れているので、MVに映っている物が、どんな形であれグループの「今」であると言っても過言ではありません。
ここからが本題です
すみません。。。バックグラウンドを知っておくと、楽しみ方が何倍も増えるのでつい。。。
さて、今回の楽曲「黒い羊」ですが、まず触れておくべきは、やはりそのタイトルでしょう。「黒い羊」というのは、白い羊の群れの中で浮いている、悪目立ちしている姿から転じて「除け者」や「厄介者」という意味を持つ言葉みたいです。ある意味では、今の欅坂46や平手友梨奈を指している言葉として捉えられるのではないかと思います。
更にMVを観る前にフォーメーションを頭に入れておくと良いでしょう。こんな感じです。
後ろから7人-5人-5人の3列構成、センターはなんと8作連続で平手友梨奈です。今回は最前列の5人、いわゆるフロントメンバーを中心にして物語が描かれていきます。(そのうち平手の比重が85%くらいな訳ですが…)
では、早速MVを観ていきましょう。というか、一度通しで観て頂いて、その上で貴方とお話がしたいです。未見の方は、まずこちら(公式サイト)からどうぞ。行ってらっしゃい!
ちなみに今回のビデオの公開方法ですが、今までYouTubeでの公開だったのに、急に公式サイト上での公開に変更されました。これは恐らくYouTubeの利用規約の問題で公開できなかったんだと思われますが、結果的にこの公開の形もまた「黒い羊」を体現する事になったんじゃないかなーと思います。
まずは大筋を追いましょう
さて、ようやく内容に入ります。
このビデオは、観た人たちが様々な解釈が出来るように思わせぶりな要素がたくさんたくさん配置されている印象を受けますね。監督の中である程度の筋はあるんでしょうけど、これらの要素から何をどう拾って解釈するかは、こちら側に完全に委ねられていると思います。
冒頭はピアノ演奏の手元のアップから始まります。ゆっくり引いていくと、道路に置かれているピアノが。監督はここで「このビデオは抽象的なイメージで物事を描いていきますよ」ということを宣言しているんだと思います。こういう演出って、わざわざ意識してなくても、実はかなり効いてくるんですよね。こういう工夫こそがデザインなんです。
そこから少しカメラが動くと、自殺現場が現れます。アイドルのMVとは思えないショッキングな演出です。そこにわらわらと報道陣や野次馬が群がります。
そこから更に引くと、今作のセンター、平手友梨奈が登場します。手には彼岸花。日本では死者に手向ける花として有名ですね。花言葉は、『情熱』『独立』『再会』『あきらめ』『転生』『悲しい思い出』『思うはあなた一人』『また会う日を楽しみに』 だそう。黒い羊にぴったりな言葉が並んでいますね。
ここからはメンバーやエキストラが入り乱れて、ありとあらゆる惨状を描いていきます。そこに現れるのは、親からの過度な期待、非行、引きこもり、犯罪、いじめなど様々な理由で世間から外れた「黒い羊」たちです。
そして彼女たちに手を差し伸べるのが、彼岸花を持った平手友梨奈です。その抱擁を受け入れる者、拒む者、受け入れながらも拒む者。反応は様々です。若者の心の葛藤が描かれます。ちなみに、メンバーには境遇や職業など、細かい設定が与えられているみたいです。
サビが終わって2番に入ると、再び様々な人間模様が描かれていきます。就職活動に疲れ果てる若者、大人から逃げてきたものの、その世界の恐ろしさに怯える若者、などなど。
そこから少し進むと、突然幸せな家族の姿が現れます。最後まで観た方ならピンと来ると思いますが、この子どもは恐らく幼少期の平手ですよね。
そこから更に少し進むと、数枚の写真を前に伏し目がちに立つ男女が現れます。ネットでは、この人たちについての解釈がかなり様々で、どれもなるほどなーという感じがしますが、僕は「若くして死んだ女の子の葬儀の受付をしている同級生」かなーと思いました。
複数の大人にがなり立てられた平手は、子どものように地団駄を踏みます。そこに流れる歌詞は「全部僕のせいだ」。
ここから二度目のサビです。平手の手には彼岸花がありませんね。このサビでは、平手の抱擁を受け入れる者は居ません。最初のサビではあそこまで強い抱擁を交わした石森でさえも、平手を強く拒絶します。
そして人々はまばゆい光の中へ消えていきます。
平手は別の道を歩き、階段の踊り場にある祭壇のような場所へ。そこには一人の少女が立っていました。誕生日のシーンに登場した女の子ですね。そこでも触れましたが、服装から察するに、これは幼少期の平手だと思われます。
少女から彼岸花を手渡され―
平手は何かを叫びます。演出上は無音になっており、正確には何と言っているか判らない為に諸説ありますが、多くの考察で言われている通り、僕も「僕だけでいい」と叫んでいると思います(ここ数日間で、もはやこれが正解という風潮になりましたね)。
ここからは屋上を舞台にした最後のサビです。ここでもメンバーとの抱擁を繰り返しますが、拒絶するメンバーは居ません。逆に大人との関係性は、拒絶し拒絶されといった感じです。
その中で明らかに扱いの違う女性が居ましたよね。平手を受け入れ、最終的には拒絶してしまうこの女性ですが、多くの考察にある通り、恐らく平手の母親であると思います。
エキストラなので、複数のシーンに出ていておかしくはないんですけど、
ここでも
ここでも
登場していますよね。これは平手の心に寄り添おうとしている母の姿の現れかなーと思いました。(最後には拒絶してしまう訳ですが…)
この回数わかりやすく映る人は他には居ないので、何か特別な役割のある人であることは間違いないのではないかなと。ちなみに平手を突き飛ばした男性が父親という説もありますが、これはちょっと何とも言えないなーと思っています。
シーンは進み、平手と人々が対峙するような形になります。ここではメンバーと大人が同列で描かれ、さっきまで黒い羊として描かれていたメンバーが白い羊に溶け込んでしまったことを表現しているのでしょう。独りで激しく踊り、「悪目立ち」している平手。ただただ見つめるだけの人々を前に後ろを振り返り、何かを決意したかのように歩き始めます。
人々もゆっくり前に進んでいますが、これは同調圧力で平手を追い詰めているように僕には見えました。平手を受け入れようと歩み寄っているという説もあるんですが、僕はこのビデオにそういった救いを感じることが出来ないんですよね。(これについては後述します)
最も黒い羊
このビデオにおいて、メンバー達は一貫して「黒い羊」として描かれていました。でもそれは、あくまでもそれぞれのコミュニティでの話。俯瞰で見れば、彼女たちもまた「白い羊」であるとも言えます。実際に彼女たちは白い羊に溶け込むことが出来た訳ですし。
今回のビデオの中で、どの黒い羊とも違う描かれ方をしているのが平手です。彼女にはコミュニティがありません。
彼女が手に持っている花、冒頭の自殺現場に散っていた花、そして彼女が最後に行き着いた場所、歩みを進めた方向。これも多くの人が推測した通り、彼女は死を選んでいると僕は思いました。
だって、この世界で一番「黒い羊」なのは、「この世界にいない者」だと思いませんか?
このビデオでは、所々に黒いマントを着た人間が登場します。基本的に現実的な服装や設定を持っている登場人物が多い中で、明らかに異質な存在です。
冒頭の自殺現場
これは誰かの考察で見たんですが、このビデオ内で唯一自分の意志で彼岸花を手にしたのが小林なんですね。これは「死を選んだ」という事だと。そして小林が彼岸花を手放す時にゆっくりその場を離れていくのが、この黒い人間です。
ここでは目線の先に「葬儀の受付」と思われる場所があります。
死を連想させる場面に登場する全身黒ずくめの人間。恐らく死神のようなポジションなのでしょうが、この世の者ではないと思われるこの人物が、登場人物の中で「最も黒い」見た目をしていることは偶然ではないと思います。そして、「最も黒い羊」なのは、この世には居ない平手でしょうね。
このビデオはループしているのか?
さて、このビデオの様々な考察を見ていてよく見かけるのが「このビデオはループしている」という意見なのですが、僕は違う見方もあるんじゃないかなーと思っています。
冒頭からずっと彼岸花を持っている平手ですが、彼岸花を手放している時間があります。「全部僕のせいだ」の後から、彼岸花を手渡されるまでの間ですよね。
このビデオの物語は、
彼岸花を持っていない状態で始まり、「全部僕のせいだ」で終わる
のではないかと僕は思っています。
時系列の入れ替えは、5thシングル「風に吹かれても」のMVでも行われていると僕は推測しているのですが、今回もそのパターンかもしれません。
このビデオにおいて、(平手を除いて)一番大きな役割を担っているのが石森だと思うのですが、彼女が平手をどう受け入れるかを、僕が推測した時系列の順番で見てみます。
最初は強い拒絶
次は受け入れる
その次は更に強い抱擁
初めは、白い羊の一人として受け入れることが出来なかった平手を、段々と受け入れるようになっていく。更に平手の死に感化され、黒い羊として生きていくことを決めた石森は更に強く平手を受け入れる。ちなみにネットでは「自らが死に近い者ほど平手を拒まない」という推測もありますね。
次に佐藤の反応も見てみましょう。
最初はやはり拒絶
次は強く受け入れ、
その次には強い拒絶
石森とは違い、彼女は後悔しているのかもしれません。黒い羊として生きると決めた事によって、以前よりも辛い状況に立たされている。他にも多くのメンバーがここでは平手を拒絶します。
そして、平手はそんなメンバーの姿を見て「全部僕のせいだ」と思ったのではないでしょうか。こんなに辛い思いをさせるならば、黒い羊であることを強く肯定するような行いをしなければ良かった、救わなければ良かったと。そしてそこで、物語は閉じられる。
こう考えれば、普通に観るよりも、彼岸花の所在や登場人物の感情の動きは自然に繋がって見えますよね。しかし、あまりにも救いが無い。屋上のシーンで僕が「このビデオにそういった救いがあるとは思えない」と言ったのは、この推測に関係しています。
でも、だからこそ、こんなにも救いが無い物語だからこそ、救われた石森の存在には大きな価値があり、また輝かしい物であるとも言えると思うんです。この曲、そしてこのビデオにあるメッセージは「絶望」なんかよりもずっとずっと大きな「救い」なのではないかなぁと、僕は思いました。
お疲れ様でした
ここまで読んでくださった方、どのくらい居るんでしょう。。。
この、たった5分程度のビデオを巡って、日本中のたくさんの人たちが長い時間をかけて議論しました。というか、今もしています。たくさんの人たちのたくさんの深読みが日夜交わされ、たくさんの人の感情を揺らし続けています。これって、とても豊かで幸せなことですよね。
「深読みさせる」って物凄い才能だと思うんです。そんな世界を言葉で作り上げた秋元康氏も、映像で作り上げた新宮良平監督も、ダンスで作り上げたTAKAHIRO氏も、そしてそれを体現してみせた平手友梨奈を始めとするメンバーたちも、みんなみんな物凄い才能です。そんな人たちと同じ時代に居ることが、僕は嬉しくてたまりません。こんなにも救いの無い世界にも、人それぞれに確かな救いが、喜びがあります。このビデオのことを考えたたくさんの時間の中で、僕はそれに少し触れた気がしました。
いや、長々と長々とすみません。。。皆さんも疲れたと思いますが、僕も同じくらい疲れています。でも何だかとてもスッキリしています。本当に、本当に、お疲れ様でした。また機会があれば、是非。
この記事を書いた人
- はら
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